インターネットの裏側に存在する「ダークウェブ」では、日々膨大な数の個人情報や認証情報が売買されています。

サイバーセキュリティの重要性が高まる中、私たちのデータが具体的にいくらで取引されているのかを知ることは、身を守るための第一歩となります。

NordVPNは2024年4月21日、脅威エクスポージャー管理プラットフォームのNordStellarと共同で、ダークウェブマーケットプレイスにおける約75,000件の出品情報を詳細に分析した結果を公開しました。

この最新調査によると、日本のクレジットカード情報が世界で最も高い水準で取引されているという衝撃的な事実が明らかになりました。

本記事では、この調査結果を基に、ダークウェブにおける個人情報の最新の取引相場と、そこから見えるサイバー犯罪の現状について詳しく解説します。

日本のクレジットカード情報はなぜ「希少なプレミアム品」なのか

ダークウェブにおける情報の価値は、一般的な市場原理と同様に「需要と供給」のバランスによって決定されます。

今回の調査によると、盗まれた日本のクレジットカード情報の中央値は27ドル(約4,000円)であり、これは世界的に見ても極めて高い価格設定です。

なぜ日本のカード情報がこれほど高値で取引されるのか、その理由は市場における「希少性」にあります。

ダークウェブに出品されているクレジットカード情報の約70%以上は北米由来であり、米国などのデータは供給過多によって「コモディティ化」が進んでいます。

対照的に、アジア由来の情報は全体のわずか4.8%にとどまっており、流通量が少ない日本やシンガポールのデータは希少価値が高まっているのです。

犯罪者にとって、セキュリティ対策が強固な日本のカード情報は入手難易度が高く、それゆえに高値で購入してでも悪用する価値があると考えられています。

以下の表は、ダークウェブで取引されている主な情報の価格相場をまとめたものです。

カテゴリー対象サービス・項目取引価格(中央値/目安)
クレジットカード日本のカード情報約27ドル(約4,000円)
メールアカウント個人のメールアカウント約1ドル(約150円)
ビジネスツール日本のOffice 365アカウント約26.50ドル(約3,900円)
SNSTikTokアカウント約60ドル(約8,900円)
ゲームPlayStation Network約150ドル(約22,200円)
暗号資産Binanceアカウント約160ドル(約23,700円)

アカウント別の取引相場:ビジネスからエンタメまで

ダークウェブで売買されているのはクレジットカード情報だけではありません。

私たちが日常的に利用しているSNSやメール、動画配信サービスのアカウント情報も、詳細な「メニュー表」のようにリスト化されています。

ビジネス・ドメイン関連の認証情報

個人のメールアカウントは1件あたり約1ドル(約150円)と、非常に安価な価格で大量にバラ撒かれるように流通しています。

しかし、企業が利用するアカウントの認証情報は、それとは比較にならないほど高値で取引される傾向があります。

例えば、日本の「Office 365」アカウントの中央値は26.50ドル(約3,900円)に達しており、ビジネスメール詐欺(BEC)や機密情報の窃取を狙う攻撃者にとって格好の標的となっています。

また、Webサイトのドメイン管理を行う「GoDaddy」のアカウントは、最大29.50ドル(約4,360円)で取引されていることが確認されました。

ドメイン管理権限が奪われると、公式サイトの改ざんや、偽のログインページへの誘導といった甚大な被害につながるリスクがあります。

SNSおよびストリーミングサービス

SNSアカウントも高い需要があり、Facebookは約38ドル(約5,600円)、Instagramは約40ドル(約5,900円)で取引されています。

中でも「TikTok」のアカウントは約60ドル(約8,900円)と、他のSNSに比べて高額な設定になっている点が特徴的です。

動画配信サービスでは、Netflixのアカウントが約4.55ドル(約670円)という非常に安価な価格で売買されています。

これは、正規の月額料金を支払うよりも安く利用したいと考える層に向けた、いわゆる「割れ」に近い形態での悪用を目的としています。

一見、クレジットカード情報の盗難に比べれば被害が小さく見えるかもしれませんが、パスワードを使い回している場合、他の重要サービスへの不正アクセスを招く「踏み台」にされる危険性があります。

最も高額な取引対象は「暗号資産取引所」のアカウント

今回の調査で、最も高額な商品群の一つとして挙げられたのが、暗号資産(仮想通貨)取引所のアカウントです。

世界最大級の取引所である「Binance」のアカウントは160ドル(約23,700円)、「Coinbase」のアカウントは中央値107.50ドル(約15,900円)で取引されています。

なぜ、これほどまでに高い価格がつくのでしょうか。

クレジットカード情報の場合、盗んだ後に商品を注文して転売したり、資金洗浄を行ったりという複雑な工程が必要になります。

これに対し、暗号資産取引所のアカウントは、不正アクセスに成功した時点でそこにある資産を直接別のウォレットへ送金できる可能性があります。

攻撃者にとって「現金化までの距離が最も近い」ことが、取引価格を押し上げる要因となっています。

さらに、ゲーム関連アカウントも驚くほど高額で、Steamは約80ドル(約11,800円)、PlayStation Networkは約150ドル(約22,200円)で取引されるケースがあります。

これらにはクレジットカード情報が紐付いているだけでなく、高価なゲーム内アイテムやライブラリが含まれているため、転売価値が非常に高いとみなされているのです。

サイバー犯罪の「民主化」がもたらす新たな脅威

NordVPNの最高技術責任者(CTO)であるマリユス・ブリエディス氏は、現在の状況を「サイバー犯罪の民主化」と呼んでいます。

かつてのサイバー犯罪は、高度なハッキング技術を持つ一部の専門家だけが行えるものでした。

しかし現在は、盗まれたデータが使いやすい形でパッケージ化され、マーケットプレイスで誰でも手軽に購入できるようになっています。

つまり、特別な知識がない人間であっても、数百円から数千円の投資をするだけで他人のプライバシーを侵害し、金銭的損害を与えることが可能になっているのです。

攻撃の手口が「高度なハッキング」から「盗まれた情報の利用」へとシフトしている事実は、私たち一般ユーザーにとってより身近な脅威となっていることを意味します。

自分の情報をダークウェブから守るための対策

一度ダークウェブに流出した情報を完全に削除することは、事実上不可能です。

そのため、まずは「情報を流出させないこと」、そして「万が一流出しても被害を最小限に抑えること」が重要になります。

以下の対策を徹底することを推奨します。

  • 二要素認証(2FA)の有効化:パスワードが流出したとしても、認証コードがなければログインできない状態を維持してください。
  • パスワードの使い回しを絶対にやめる:一つのサービスから漏洩した情報が、他のすべてのサービスの鍵にならないように管理しましょう。
  • パスワードマネージャーの活用:複雑でユニークなパスワードを生成し、安全に保管するツールを利用してください。
  • ダークウェブ・モニタリング機能の利用:自身のメールアドレスや情報が流出していないかを確認できるサービスを利用し、早期発見に努めてください。

特にクレジットカードについては、不審な利用履歴がないか定期的に明細をチェックし、カード会社の通知機能をオンにしておくことが有効です。

また、利用頻度が低いサービスのアカウントは、個人情報を残したまま放置せず、退会手続きを行うことも重要なセキュリティ対策の一つです。

まとめ

今回のNordVPNの調査結果は、私たちのデジタルな分身とも言える「個人情報」が、ダークウェブ上で明確な価格を付けられた「商品」として流通している現実を浮き彫りにしました。

日本のクレジットカード情報が「世界最高値」で取引されているという事実は、日本のユーザーが依然としてサイバー犯罪者にとって魅力的なターゲットであることを示しています。

サイバー犯罪はもはや遠い世界の出来事ではなく、誰でもわずかな金額で他人の情報を買い、攻撃を開始できる環境が整っています。

私たちは「自分は大丈夫だろう」という根拠のない自信を捨て、基本的なセキュリティ対策を地道に、かつ徹底して継続していく必要があります。

自分の情報がどこでどのように扱われているのかを意識し、デジタル社会における自己防衛の意識を常にアップデートし続けましょう。